横浜地方裁判所 昭和59年(行ウ)31号 判決 1986年1月29日
原告
京浜メディカル株式会社
右代表者
大西由利子
原告
上大岡仁正クリニックこと大西俊正
右両名訴訟代理人
髙井和伸
被告
横浜市建築主事高石幸明
右訴訟代理人
綿引幹男
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五九年六月一二日付で訴外有限会社上大岡パーキングビル(以下「訴外会社」という。)に対してした建築確認(以下「本件建築確認」という。)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の本案前の答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 訴外会社は、上大岡パーキングビル(以下「本件建物」という。)の建築工事に着手する前に、被告に対し、その計画が建築関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出し、被告は、これに対し、昭和五九年六月一二日付で本件建築確認をした。
(二) 原告らは、昭和五九年六月一八日、横浜市建築審査会に対し、本件建築確認の取消しを求める旨の審査請求をしたが、同審査会は、同年七月二七日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年八月四日その旨を原告らに通知した。
(三) 本件建築確認に係る本件建物は、その後、その工事が完了して完成した。
2 本件建築確認は、次の理由により違法である。
(一)(1) 本件建物の敷地の北側に隣接する横浜市港南区上大岡西一丁目二三二番七、宅地、一五三・七六平方メートル(以下「本件土地」という。)は、建築基準法(以下「法」という。)第三章の規定が適用されるに至つた昭和二五年一一月二三日当時(以下「基準時」という。)、現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満一・八メートル以上の道であつた。
(2) 横浜市長は、そのころ、横浜市建築基準法施行細則一二条において、「法第三条の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満一・八メートル以上の道は、法四二条二項の規定による道として指定する。」旨定めた。
(3) よつて、本件土地は、法四二条二項に該当する道路(以下「二項道路」という。)である。
(二) 仮に、本件土地が二項道路でないとしても、横浜市建築主事は、これまで少なくとも三〇年にわたつて、本件土地を二項道路として取り扱つてきており、ちなみに、本件土地の北側に隣接する土地を敷地として建築された原告京浜メディカル株式会社(以下「原告会社」という。)の所有に係る別紙物件目録記載の建物(以下「原告会社所有建物」という。)の建築確認においても、本件土地を二項道路として取り扱つていること、また、横浜市建築局企画指導課に備え付けられた道路地図(建築基準法による道路台帳(港南区))には、本件土地が二項道路として表示されていることなどに照らすと、被告は、本件建築確認においても、本件土地を二項道路として取り扱うべきであつた。
(三) しかるに、被告は、本件建築確認において、本件土地を二項道路として取り扱つておらず、このため、本件建物のうち、少くとも別紙図面イ、ロ、ハ、イを順次直線で囲んだ部分が法五六条一項一号ロに規定する建物の高さの制限に牴触することを看過した違法がある。
3(一) 原告会社は、原告会社所有建物の敷地を賃借し、原告大西俊正は、同建物を原告会社から賃借して同建物内において、医師三名、看護婦一八名、技師三名、助手六名及び事務員四名の陣容で内科及び循環器科の診療を行つている。また、原告大西俊正は、同建物一階南側に、重度身体障害者であつて肉体的精神的に脆弱な生存状態を続けている人工透析患者のためのベッド約一〇床を設けている。
(二) しかして、本件建物が建築されると、本件建物が五階建の自動車駐車場用ビルであるため、原告会社所有建物につき、一階の日照が奪われ、通風が阻害され、また、排気ガスが吹き寄せるという事態が生じ、これにより、原告会社は、同建物の敷地についての借地権価格が下落する被害を受け、また、原告大西俊正は、前記人工透析患者にとつての環境が劣悪化することから、そのベッドを同建物二階に移す措置をとらざるをえず、このような措置をとつても、今後患者が減少して経営上多大の被害を受けることになる。
よつて、原告らは、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 被告の本案前の主張
本訴は、次のとおり、訴えの利益がないから不適法であり、却下されるべきである。
1 仮に本件土地が二項道路であるとしても、法五六条一項一号の規定する道路斜線制限は、道路の天空の日照や通風を確保し、高層ビルによる谷間の形成を避けることを目的としており、当該道路の隣接地の日照通風の確保を目的としたものではないから、原告らの主張する日照通風の利益は、単なる事実上の利益又は法の反射的利益に過ぎず、法律上保護された利益に該当しない。また、原告らの主張する排気ガスによる被害は、前記道路斜線制限と何ら関係がない。
2 のみならず、仮に本件土地が二項道路であるとした場合においては、前記道路斜線制限は、本件建物が商業地域内にあるから法五六条一項一号ロの規定により、本件建物の各部分の高さを別紙図面イ、ハ、ヘを順次直線で結んだ線以下としなければならず、このため、本件建物のうち同図面イ、ロ、ハ、イを順次直線で囲んだ部分が右規定に牴触することとなるが、この場合においても、そもそも、同図面イ、ト、チを順次直線で結んだ線以下の空間には建物の建築が可能であるから、本件建築確認において右道路斜線制限をしないことによつて、原告らが享有しうべき日照を奪うこととなるものではない。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の事実は認める。
2 同2項(一)(1)の事実は否認する。基準時において本件土地に沿つて建築されていた建物は一棟のみであつた。同項(一)(2)の事実は認める。同項(一)(3)の点は争う。同項(二)のうち、横浜市建築主事がこれまで少なくとも三〇年にわたつて本件土地を二項道路として取り扱つてきたことは否認し、原告会社所有建物の建築確認において本件土地を二項道路として取り扱つたことは認め、その余の点は争う。同項(三)のうち、被告が本件建築確認において本件土地を二項道路として取り扱つていないことは認め、その余の点は争う。
3 同3項(一)の事実は知らない。同項(二)のうち、本件建物が五階建の自動車駐車場用ビルであることは認め、その余の事実は否認する。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1項(一)、(三)の事実、即ち、訴外会社が本件建物の建築工事に着手する前に、被告に対し、その計画が建築関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出し、被告が、これに対し、本件建築確認をしたこと及び本件建築確認に係る本件建物が、その後、その工事が完了して完成したことは、当事者間に争いがない。
そうすると、原告らにおいて本件建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われたものといわなければならない(昭和五八年(行ツ)第三五号同五九年一〇月二六日最高裁判所第二小法廷判決、民集三八巻一〇号一一六九頁参照。)
二よつて、原告らの本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく不適法であることが明らかであるから、これをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古館清吾 裁判官橋本昇二 裁判官足立謙三)